「たんぽぽ計画」に関して良く聞かれる質問とその応え(詳しい説明)
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有機化合物の分析手法(質量分析)の詳しい説明へ
有機物変成実験のさらに詳しい説明へ
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A: 有機化合物分析のさらに詳しい説明
地球上で発見された炭素質隕石の抽出液を加水分解するとアミノ酸が検出されます。つまり、隕石が形成された場所である宇宙環境には、生物の源となり得る有機化合物が存在するということになります。それでは、宇宙環境で形成されて原始地球上に供給された有機化合物は、地球上の生命の誕生にどの程度寄与したのでしょうか?
「たんぽぽ計画」では、それを明らかにすることを目的の一つにしています。地球に降ってくる隕石の中でも有機化合物を含んでいる炭素質隕石の割合は、それほど多くありませんが、大きさが数十μm(マイクロメーター;1 μm = 0.001 mm)の宇宙塵ではその大部分が炭素質隕石のような性質です。(こうした性質を始源的とよんでいます)。1mmよりも小さい宇宙塵は年間数万トンも地球に降り注いでいます。このため、宇宙塵中の有機化合物の種類と組成を調べることによって、生命の起原よりも前に地球上にやってきた有機化合物の量を知ることができるようになります。ところが、宇宙塵が地球上に到達した後では、地球生物の汚染を受け、宇宙塵そのものに含まれていた有機化合物を識別することができません。そこで、生物汚染のない宇宙空間で宇宙塵を捕集する必要があります。「たんぽぽ計画」で採取される宇宙塵は、非常に良い研究試料になります。
宇宙塵の大きさは、数十μm程度なので、次のような微少領域を対象とした分析法を取り入れます。
nano-SIMS法:同位体分析
顕微ラマン分光法:変性度
顕微赤外分光法(FT-IR):官能基分析
飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF-SIMS):構造の再構築
X線走査型電子顕微鏡およびX線吸収端近傍微細構造分光法 (STXM/XANES):官能基分析
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A. 有機化合物の分析手法、質量分析の詳しい説明
有機化合物分析では、どのような物質がどれだけ存在するかを明らかにする必要があります。宇宙塵の試料量は非常に少なく、そこには多種の有機化合物が含まれているだろうと予想しています。そこで、少ない試料量で多くの情報が得られる質量分析法を用いる予定です。
また、宇宙塵中に含まれる有機化合物の大部分は、低分子化合物ではなく、複雑な分子構造を持つ高分子量物質であると予想しています。そこで、高分子量物質を適度に壊して、その断片の構造を調べることになります。こうした分析には、TOF-SIMSと呼ばれる手法が有効です。この方法は、金イオンビームを照射することにより、高分子量化合物を穏やかに壊して、生じた断片の質量を求める方法です。分子結合の弱い部分で分解するので、生じた断片を再構成することで、宇宙塵中の有機化合物構造を推定することができます。さらに高エネルギーのイオンを照射する事により、有機化合物を非常に小さい断片や原子にまで分離し、同位体比を求めることも可能です。安定同位体比は、その有機化合物の生成機構や生成した環境条件を反映するので、どこで有機化合物が合成されたかの情報を得ることができます。
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有機物変成実験のさらに詳しい説明
有機化合物は、宇宙空間の紫外線や宇宙線などにより、組成や量が変化します。そこで、宇宙空間で有機化合物はどんな変化を受けるのかを調べます。直径1 mm程度の小孔に有機化合物を詰めて、1年から数年程度の暴露後に回収し、有機化合物の組成や量の変化を分析します。また、有機化合物を粘土の中にしみ込ませたり、金属イオンとの塩を形成したりする事により、安定性が向上するのかを調べます。暴露する有機化合物としては、アミノ酸、核酸塩基、PAHなどの低分子化合物、タンパク質、核酸などの生体高分子化合物に加えて、宇宙空間を模して合成した模擬星間有機化合物や炭素質隕石からの抽出物などの複雑有機化合物を計画しています。
暴露実験に用いる有機化合物が、暴露部から分離し、宇宙塵採取実験に対する汚染源となる可能性があります。しかし、暴露部から分離した試料であれば、相対速度がほとんどないのでトラックの形状から判断できると考えます。さらに、暴露する有機化合物を同位体ラベルすることにより、区別することも予定しています。
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