ホームサイ トマップお 問い合わせ
トップページへintroductionへ researchへpublicationへ peopleへlinkへ

---死細胞貪食による免疫制御機構の解明---

ヒトは数十兆個の多種多様な細胞で成り立っているが、その発生の過程で不要となった細胞は、細胞死により排除される。この細胞死はアポトーシスと呼ばれ、 細胞に内在する自殺プログラムの実行により起こる。また体内で癌化した細胞やウイルスに感染した細胞も、その初期の段階でアポトーシスにより積極的に排除 されている。
このように、体内では毎日多くの細胞がアポトーシスにより排除されているにもかかわらず、生体内をどんなに注意深く観察しても、その死骸を見つけることは 極めて難しい。これはアポトーシスを起こした細胞の死骸が、マクロファージ や樹状細胞といった食細胞により速やかに貪食され、処理されているためである。このマクロファージによる死細胞の貪食は、アポトーシスそれ自体と同様に、 生体の恒常性の維持に重要な役割を果たしていると考えられている。
1.死細胞貪食の分子機構
マクロファージ等の食細胞は死細胞を速やかに貪食するが、生きている細胞は決して貪食しない。
このことから食細胞は生細胞上にはなく、死細胞表面上にのみ存在する分子を特異的に認識する機構を有していると考えられる。我々は、以前にこの現象に関与 する分子として、Milk Fat Globule EGF Factor 8 (MFG-E8)と呼ばれる分子を同定した。MFG-E8はアポトーシス細胞上に出現するフォスファチジルセリンに特異的に結合し、さらにRGD配列依存 的に食細胞表面のαvβ3インテグリンに結合する。MFG-E8はアポトーシス細胞と食細胞を橋渡し死細胞の貪食を促進する機能を有することが分かった。

2.死細胞貪食の生理的意義
生体内における死細胞貪食は、死細胞の出現後極めて迅速に起こるが、この現象の生理的、病理的意義は何であろうか。 MFG-E8欠損マウスでは脾臓やリンパ節の胚中心での死細胞の貪食に異常が見られるが、加齢に伴って高率に血清中の抗核抗体や抗 DNA抗体が陽性となり、腎臓の糸球体における免疫グロブリンの沈着や蛋白尿といった糸球体腎炎の所見を呈する。また死細胞貪食を抑制する作用を持つ変異 MFG-E8タンパクをマウスに繰り返し静注すると、やはり血清中に抗リン脂質抗体や抗核抗体が出現する。これらの知見より死細胞の貪食は自己に対する免 疫寛容状態を維持するのに重要な役割を果たしており、死細胞貪食の異常が自己免疫疾患発症の一因である可能性が示された。

3.死細胞貪食による免疫制御法の開発
マクロファージ等の食細胞は、貪食した死細胞を有効活用することにより、積極的に免疫寛容や活性化を誘導することが明らかになってきた。我々はこの機構を 応用し、死細胞を 用いた自己免疫疾患や癌の治療法の開発に成功した。さらに、この死細胞投与による免疫制御に関与する特殊なマクロファージを同定し、その機能解析を行って いる。