極限環境生物学 Extremophiles

black smoker

ブラックスモーカーと呼ばれる300℃を超える黒い熱水を噴き出す海底の極限環境。
100℃を超える周辺の熱水中にも微生物の生息が確認されている。

極限環境生物学とは、文字通り極限環境下に住む生物について学ぶことである。では、極限環境とはどのような環境なのであろうか?我々人間は、常温、常圧下で暮らしているが、地球上には0℃、あるいはそれ以下の低温環境、100℃を超えるような高温環境、酸性環境、アルカリ性環境、深海部の水圧の大きい環境があり、そのような環境下にも生物が生きている。宇宙に目を向ければ、強い放射線や紫外線が降りそそいでいるが、そのような環境下でも生きていける生物がいるかもしれない。こういった、我々人間の常識では考えられないような環境を極限環境と呼び、極限環境下で生きている生物を極限環境生物で呼ぶ。ただし、人間目線では極限環境生物でも、極限環境生物側からすれば、人間の方が極限環境生物かもしれない。
 では、極限環境生物学を学ぶことにはどのような意味があるだろうか。まずは、生命の生存できる限界の探究である。生存条件の限界を知ることは、生命とは何かを理解するうえで、是非とも知っておきたい情報である。さらに、宇宙における生命探査においても、どのような環境の星にならば生命が生存している可能性があるかを知るための手がかりにもなりそうだ。
 第二に、生命の環境への適応の仕組みを調べる材料の提供である。例えば、人間は60℃のお湯に手を入れるとやけどを負ってしまう。タコを沸騰水中に入れると茹でタコができる。これらは、人間やタコを構成しているタンパク質が高温で変性してしまうからであるが、100℃を超える温度で生育している生物は沸騰水中でも茹だらない。つまりタンパク質が壊れず変性しないのである。そこで、高温環境で生きている生物のタンパク質と人間のような常温で暮らす生物のタンパク質を比較することで、タンパク質が高温でも壊れないようになる仕組みが分かると期待できる。
 第三は、バイオテクノロジーへの応用である。例えば、触媒能を持つタンパク質である酵素は、金属触媒と比べると、常温常圧下で働き、反応効率も反応特異性も高く、副生成物をほとんど生じさせないという優れた特性をもっている。しかし、酵素は一般的には安定性が低いためにすぐに壊れて使い物にならなくなってしまう。しかし、高温環境に住む微生物が持つ酵素はとても安定性が高く壊れにくいため、工業的に使われ始めている。また、アルカリ性の環境に住む微生物が持つ酵素は、アルカリ洗剤と混ぜて使われている。このように、極限環境生物学の研究からバイオテクノロジーへの応用へと展開されていった例は多くあり、今後さらに増えていくと期待されている。極限環境生物学には宝の山が眠っていると言っても過言ではなさそうだ。

さらに詳しい内容を知りたい方は以下の本を参考にしてください: 現代生物科学入門(浅島誠、黒岩常祥、小原雄治編)10. 極限環境生物学、山岸明彦 他著、岩波書店

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