ResearchSERVI



最近行った研究、今行っている研究を紹介します

電気化学活性菌の基礎と応用
電気化学活性をもつ微生物は、有機物を酸化して電極に電子を流し、発電することができます。また、電極から電子を受けとり、細胞内の還元的代謝を進めることもできます。このようなエネルギー代謝は最近発見されたもので、科学的に大変興味深いものです。さらに、これを応用すればバイオマス廃棄物などから電気が作れたり(微生物燃料電池)、電気を使って有用物質が合成できたり(微生物電気合成)するので、応用面でもたいへん注目されています。我々は、ゲノム解読が完了し、遺伝子組換えが可能なモデル電気化学活性菌のShewanella oneidensis MR-1株(シュワネラ、右の写真)を用いて、電気を流すメカニズムを解明するための研究を行っています。 最近、シュワネラ菌は電極の電位を認識し、代謝経路をそれに合わせて調節することを発見しました(Hirose et al., 2018 nature commun.)。



微生物燃料電池の開発・実用化研究
電気化学活性菌の多様な代謝能力を利用すれば、多様な有機物を燃料にした燃料電池を作ることができます。純粋培養した単一の電流生成菌を植えて微生物燃料電池を作ることもできますが、土や汚泥などの自然微生物群集を用いることも可能です。左の写真は、バイオマス廃棄物発電や廃水処理用に当研究室で開発したカセット電極微生物燃料電池です(Miyahara et al. 2013 .J. Biosci. Bioeng.)。廃水処理への利用については実用化が大きく期待されており、企業との共同研究を行っています。



微生物電気分解槽の開発
電気化学活性菌により有機物を分解し、発生した電子に電気エネルギーを加えてプロトンを還元し、水素を作ることができます。このような装置は微生物電気分解槽と呼ばれ、バイオマス廃棄物からの高効率な水素生産への応用が期待されています。当研究室では、高効率な水素生産をめざし、微生物電気分解槽に適した電極の開発、運転法の開発、微生物制御法のを行っています(Fujinawa et al. 2019 Appl. Microbiol. Biotechnol.)。








生物の共生の研究
自然環境中で微生物は、栄養物質をお互いにやり取りし、効率よくエネルギーを獲得しています。このような共生関係が形成される際には、多種の微生物の中から好みのパートナーを探し出し、接近することが必要です。我々は、メタン発酵生態系に生息する発酵菌(Pelotomaculum, PT)とメタン菌(Methanothermobacter, MT)が共生する際に、それまで運動の道具と考えられていた鞭毛が、パートナーを探し出し、その代謝を活性化するための道具として使われていることを発見しました(左の図)。この成果は、Science誌に掲載されました(Shimoyama et al. 2009. Science)。
 また、土の中で微生物が電気エネルギーをやり取りする”電気共生”という現象を発見しました(Kato et al. 2012. PNAS)。この成果は、米国科学アカデミーや科学技術振興機構などから注目研究としてマスコミに発表されました。



微生物生態系のメタゲノム解析

微生物を含む生態系を解明する学問である微生物生態学は、ゲノム解析の発展に伴い近年大きく進歩しました。複数の生物のゲノムをまとめて抽出・解析するメタゲノム解析と呼ばれる方法が可能になり、腸内細菌群などの生態系の解明において威力を発揮するようになっています。我々の研究室ではこの手法を使って、発電やメタン発酵を行う微生物生態系における各種微生物の役割を解明しています。微生物を単離・培養することなく、複雑な生態系に生息する各種微生物の機能が理解できるようになり、環境保全やエネルギー生産への微生物生態系の利用に関する新たな可能性も見えてきました。
 右の図は、微生物燃料電池の電極に付着したバイオフィルム生態系から得られたコンティグ(ゲノム断片)をCoverage(重複度)とGC含量を基にグループ分けし、各種微生物ゲノムの再構築を試みた際に作成したバブルチャートです。17種のゲノム再構築物(bin-genome)ができてきており、これらが示す微生物の出現頻度、分子系統、さらに機能までも分かってきました(Kouzuma et al. 2018 Biores. Technol.)。



田んぼ発電
これは、千葉県野田市の野田自然共生ファームにおける田んぼ発電の写真です。田んぼ発電とは、稲の根圏土壌にアノード(負の電極)を、すぐ上の水中にカソード(正の電極)を設置し、それらを電線で繋ぐことにより発電する方法です。現在は、1 m2の広さで数十mW程度の電力が得られます。つまり、数平方メートルの田んぼで発電すれば、携帯音楽プレーヤーを動かすことができます。この発電においては、稲が光合成により作り出した有機物が根から放出され、根圏の電流生成菌のエネルギー源となることにより電気が発生します。そこで、稲と微生物の共同作用(共生系)による太陽電池とも考えられています(Kouzuma et al. 2014. Appl. Microbiol. Biotechnol)。



田んぼから単離した電流生成菌

田んぼの土には、多様な微生物が生息しています。我々は、田んぼの土を微生物の植種源として、セルロースを燃料にした微生物燃料電池を立ち上げました( Ishii et al. 2008. BMC Microbiol. 8:6)。このなかの電流生成メカニズムを解明することを目的に、電極に付着した微生物の単離を行い、左の写真に示す細菌Mfc52株を単離しました。 この株は、純粋培養の微生物燃料電池において、酢酸などを燃料に電流を生成する電流生成菌でした。しっぽを使って、電極に付着します。分類学的解析により新種と認定されたので、我々はRhizomicrobium electricumと命名しました("electricum"は、電気という意味のラテン語; Kodama and Watanabe. 2011. Int. J. Syst. Evol. Microbiol. 61:1781)。



ナビゲーション


〒192-0392
東京都八王子市堀の内1432-1
TEL:042-676-7079
FAX:042-676-5190

東京薬科大学
生命科学部
生命エネルギー工学研究室


研究4号館2階