List of class taught by takasu thermodynamics thermodynamics polymer simulation

モンテカルロ法を用いたポリマーとゲルのシミュレーション

高須昌子 (金沢大学理学部 計算科学科)

高分子1999年5月号原稿。

モンテカルロ法は、高分子のシミュレーションで大きな力を発揮する。
ここでは、私の研究室での高分子のシミュレーションの研究について紹介する。
他の量子トンネル現象のモンテカルロ法などについては、紙面の関係で省略する。

(1)モンテカルロ法の概略とstickerポリマーの
シミュレーション

全部を厳密に計算することが困難な場合に、代表的な状態をうまくサンプリング
して、必要な量を概算する方法をモンテカルロ法と呼んでいる。

統計力学では、ボルツマン分布により、低いエネルギーの状態ほど確率が高くな
る。メトロポリス法というアルゴリズムが用いられており、エレルギーの低い状
態を中心にサンプリングすることが多い。

しかし、メトロポリス法では、温度が低くなると、エネルギーの谷から別の谷へ
移動することが難しい。そのために、Bergらにより、エネルギーについてほぼ一
定の分布を用いる、マルチカノニカル法が考案された。私たちは、このマルチカ
ノニカル法を用いて、 stickerを持つポリマーのシミュレーションを行なった1)。
この方法は、様々な温度での物理量を同時に求めることができるという長所も持ち、
たんぱく質の計算でも使われている。

(2)タバコモザイクウイルスと多糖類のシミュレーション

タバコモザイクウイルス(TMV) は多糖類の存在下で、ネマティック転移を起こし、
ウイルスの感染力が低下する。この現象のシミュレーションを行なった。2)

モデル化に当たっては、個々の原子を記述したのでは、自由度が多くなり、計算時
間が膨大にかかる。簡単なモデルを作成し、シミュレーションを行なった。スナッ
プショットを図1に示す。

TMVの配向のパラメータと、各TMV分子の回りの凝集のパラメータを計算した。
これより、TMVの濃度を上げて行くと、まず相分離が起こって、TMVが近くに集まり、
さらに濃度を上げると、ネマティック転移が起こることがわかる。つまり、相分離は
しているがTMVが配向していない状態が、中間のTMV濃度で存在する。

(3)ゲルのシミュレーション

化学ゲルにおいて、ゲルの形成過程や秩序は興味深い。実験では、散乱などの情報を
得ることができるが、シミュレーションでは、実際のポリマーやゲルの形を見ること
ができ、相補的な関係にある。私の研究室で、現在、ゲルのシミュレーションが進行
中である。

おわりに

モンテカルロ・シミュレーションは、上記のような高分子の研究で役立つだけでなく、
物性物理3)や、金融や経済の分野4)でも使われており、これからの進歩が期待できる
手法である。

なお上記2は、お茶の水女子大学の今井正幸先生、食品総合研究所の佐野洋先生との
共同研究である。

上記(1),(2)は研究室の大学院生の浦上直人君、(3)は加藤晃一君がシミュレーション
を行なった。

文献

1)N. Urakami, M. Takasu: J. Phys. Soc,Jpn 65, 2694
(1996); Molecular Simulation 19, 63(1997).
2)N. Urakami, M. Imai, Y. Sano, M. Takasu:
in preparation. 3)鈴木増雄、宮下精二、高須昌子: 量子系のモンテカルロ法、
数理科学別冊「シミュレーション」12(1993).
4)J. R. Evans, D. L. Olson, Introduction to
Simulation and Risk Analysis, 1997 Prentice Hall.


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Last modified on May 4, 1999.