生命科学の力で食品・環境・エネルギーの未来を拓く

応用生命科学とは?

 応用生命科学とは、食品・医薬品・微生物・エネルギーなど、生物学のすべてと生物の利用を考える分野です。応用生命科学では、ひろく生物学、環境学、化学、生命工学を学び、生物のチカラを利用する研究を通して、生活をまもり豊にする研究を行っています。この分野では遺伝子解析を元にした技術が急速に進歩しつつあります。
 これまでの分野に加えて、微生物エネルギー、植物や動物の生化学、発生、生理学、生態学、創薬、タンパク質工学の分野が急速に発展しつつあります。
 応用生命科学の分野では、醸造、発酵の制御、燃料電池として微生物を利用する研究植物の生化学反応(光合成、光応答など)動物の形態形成、生理、病態など、遺伝子レベルでの研究がすすんでいます。生態学環境変化のモニタリングも、いまや遺伝子解析を基礎に研究が進んでいます。
 さらに微生物や動植物で薬を生産するシステムの開発、極限環境にすむ生物由来酵素とその研究を利用した洗剤や診断薬、診断装置の研究が行われています。

田んぼの電池でドラえもん?

 ドラえもんふしぎのサイエンスという本で、我々の研究が紹介されました。食べ物などの有機物を分解して電気にする微生物を使えば、どら焼きを食べて動くロボットが創れるというのです。生命エネルギー工学研究室では、生ごみなどの廃棄物からでも電気が作れる微生物燃料電池や土の中の微生物を利用した田んぼ発電の研究をしています。

(上) 研究室全員で田植えをした田んぼ発電の実験。
(左) 土の中にいる発電菌ゲオバクター。 (右) 卓上電源用の微生物燃料電池。

タンパク質でコンピューター?

 大腸菌で作らせたタンパク質をいくつか混ぜてかき混ぜるとコンピューターのチップ(演算素子や記憶素子)が出来上がる? 極限環境生物学研究室が目指している夢の一つです。バイオナノテクノロジーの技術で、タンパク質とタンパク質を自由につなげることができれば、やがてタンパク質でできたコンピュータのチップが実現するかもしれません。

タンパク質工学では、自然界にあるタンパク質を変えて、
医薬品の合成や環境浄化に利用しています。

タンパク質分子Aとタンパク質分子Bを結合するようにする。
分子Aと分子Bが交互に結合すると繊維を形成する。
これを横方向に結合するとシートに、上下につなげると立体になる。

火星に生命?

 火星人ではありません。目に見えない微生物なら火星にまだ生きているかもしれません。ロケットで火星に顕微鏡を運んで、ロボットで自動的に観察する。これは、極限環境生物学研究室が宇宙研と協力して本当に研究中の計画です。詳しくはこちらから

アストロバイオロジーというのは、宇宙での生命の起源と進化を研究する学問分野です。地球で、生命が誕生するまでに、有機物が宇宙で合成されて地球にやってきたと推定されています。また、誕生した生命は惑星間を移動する可能性があります。銀河系の中に、地球と同じような惑星がどんどん発見されてきています。その中には、生命が誕生して進化している惑星もあるに違いありません。こうした研究が急速に進んでいます。詳しくはこちらから

ミジンコの手は?

 一見、手のように見えますが、実は触角です。遺伝子操作で形が変わったりします。この方法を使って、卵から体がどのようにできるかを研究しています。また遺伝子を導入することで、センサーのような働きをするミジンコができるかもしれません。ミジンコやセミ、カエルやヒトが、なぜこんなに違った形をしているのか、大分わかってきています。

酸素が少ないために赤くなったミジンコ

高温や放射線から遺伝子を守る

 温泉などの高温状態や放射線を浴びてもなかなか死なない微生物がいます。なんでそんなに強いのか。高温でも放射線を浴びても DNA を素早く直す仕組みがあるのでしょう。そんな仕組みを明らかにする研究をしています。どんな注意をすれば、ガンにならずにすむのかということがわかってくるかもしれません。

放射線を受けて形が変わった染色体。
放射線を受けても死なない細菌のコロニー(細胞の固まり)。

メスがオスに変わる?

 環境ホルモンでイボニシ貝はメスがオスに変わってしまいます。その仕組みを遺伝子の面から研究しています。その研究から、同じ環境ホルモンがネズミに肥満を起こす可能性があるということが解ってきました。野生動物に起こっている異常を研究することにより、野生動物もヒトも守り共生することができる社会を作ることに役立ちます。

環境ホルモンの研究で注目されているイボニシ。

人見知りのモデルマウスができた?

 環境変化に対応するためのマウス遺伝子を調べてみると、この遺伝子を持たないマウスはおっとり型で、少し不安がちで、人見知りをするマウスであることがわかってきました。環境変化が動物の行動におよぼす影響を理解するために大切な遺伝子の一つがわかりかけています。 遺伝子を変えることによって性質の変わったマウスは、ヒトの行動や病気の解明のために利用されています。

ヒトの行動や病気の解明のために用いられるマウス。

藻類で油・石灰岩を作る

 藻類から油が作れないか、環境応用植物学研究室では、藻類で油をつくる研究を他機関と共同で進めています。藻類のなかには二酸化炭素を石灰石に変えてしまうものもいます。究極の二酸化炭素固定法です。

クロレラやクラミドモナス、円石藻などの微細藻類を使って研究した成果は、
やがて植物の改良や資源エネルギーの生産に役立つはずです。

校内で二酸化炭素固定中!

 東京薬科大学には落葉広葉樹二次林が18ヘクタールも保存されています。生態学研究室の研究で、この二次林は毎年ヘクタール当たり30トン以上の二酸化炭素を固定する旺盛な成長を続けていることが分かりました。また、二次林の林床植物保全のための研究も続けています。

広葉樹林の林床に咲く可憐なカタクリ(左)とキクザキイチリンソウ(右)の花。

森林は大量の二酸化炭素を毎年固定しています。写真は大雪山。

絶滅危惧種の植物はどのように暮らしている?

 東京薬科大学キャンパス内に広がる落葉樹林の下には、絶滅危惧II類のタマノカンアオイが見られます。タマノカンアオイの葉は春に展開し、翌年の春に枯れます。落葉樹の葉の茂る暑い夏には薄暗く、落葉樹の葉が落ちる寒い秋から冬には明るい環境で、タマノカンアオイの葉がどのように光合成をして成長しているかを研究しています。

タマノカンアオイは春に葉を展開し、花弁のない花を咲かせます。1年間に1から2枚しか葉をつけません。