第1回生命科学セミナー
 日時: 4月19日(水)17時〜
 場所: 研究3号棟12階 セミナー室 G

 

演題1:木村 葉那さん(分子細胞生物学研究室 D3)
「Syntaxin 17はACSL3の局在を制御することで脂肪滴の成熟を促進する」

 小胞体上のミトコンドリアとの接触部位(mitochondria-associated ER membrane:MAM)では、ミトコンドリアと連携したカルシウムシグナリングや脂質合成が行われている。小胞体上のSNAREとして同定されたsyntaxin 17(Stx17)は、MAMやミトコンドリアにも局在し、定常状態ではミトコンドリアの切断制御に機能する一方で、栄養飢餓状態ではオートファジーを調節している。これらの多様な活性には、Stx17が局在・結合パートナーを変換することが重要である。興味深いことに、Stx17の発現はユビキタスであるものの、ステロイド産生細胞等の脂肪滴が豊富な細胞において高い。脂肪滴は単一の脂質膜から構成され、内部に中性脂質を貯蔵するオルガネラである。脂肪滴の成熟過程では様々な脂質合成酵素が順序立てて脂肪滴上へ供給されるが、その分子メカニズムは未だ不明である。今回、Stx17が脂肪滴形成に必須な脂質合成酵素の一つであるACSL3の脂肪滴への局在化を調節することを明らかにしたので報告する。
 

演題2:林 嘉宏 講師(腫瘍医科学研究室)
「骨髄異形性症候群の病態形成におけるHIF-1αシグナルの中心的な役割」

 骨髄異形成症候群(Myelodysolastic syndromes; MDS)は、多系統の異形成と血球減少を特徴とし、骨髄不全あるいは急性白血病に移行する難治性の造血器悪性腫瘍ある。近年MDS患者において数多くの遺伝子変異が同定されている。しかし、MDSを特徴づける臨床的表現型は、遺伝子異常の種類によらず共通しており、MDSの病態形成をになう共通の病態生物学的な因子の存在が示唆される。
 われわれは、Hypoxia inducible factor-1α(HIF1A)が、MDSの病態形成において中心的な役割を果たすことを見出した。HIF1Aは細胞増殖、アポトーシス、血管新生、糖代謝、造血幹細胞制御などの生理的機序に関与する様々な遺伝子を制御している。MDS患者183例の骨髄CD34陽性細胞におけるHIF1A標的遺伝子の発現を解析したところ、病期や遺伝子変異に関わらず、様々なHIF1A標的遺伝子の発現が健常人ドナーに比べて亢進していた。MDSで頻繁に変異が同定される遺伝子(DNMT3, TET2, ASXL1, RUNX1, MLL1)の変異マウスの造血幹前駆細胞を用いた検討でも、HIF1Aタンパクの発現がコントロールに比べて亢進していた。さらに、MDSマウスモデルにおいてHIF1Aの発現を欠損させるとMDSの表現型、病態進行が有意に抑制された。また、すべての造血細胞にHIF1Aタンパクの発現を誘導できる遺伝子改変マウスでは、多様なMDSの病態が再現された。 これらの結果は、多様で複雑なMDSの病態における共通の病態生物学的な因子としてのHIF1Aの役割と新たな治療標的としての可能性を示唆するものと言える。