卒業生メッセージ

視野を広く、枠に囚われない

吉田 拓也 さん

平成18年3月 環境生命科学科(現応用生命科学科)環境応答生物学研究室 卒業
平成23年3月 東京大学大学院農学生命科学研究科応用生命化学専攻 博士課程修了 博士(農学)
平成23年4月 東京大学大学院農学生命科学研究科応用生命化学専攻 特任研究員
平成24年1月 同 特任助教

 現在特任助教として東京大学大学院農学生命科学研究科に務めていますが、東薬で学生生活を謳歌していた時には、よもや10年後に今の職業に就いているとは夢にも思っていませんでした。というのも、大学生の頃は剣道一筋で、授業や実習も淡々とこなし、勉学や研究に特別興味も持たず、将来についても何のビジョンも持ち合わせていなかったからです。ですが、2年次の植物生理学の授業を受け、植物という生き物の不思議さ、特にCAM型植物の講義を通じ、植物が過酷な環境で生存する仕組みに興味を持ち始めました。

 その後、3年次に進級してからは特別演習、4年次からは卒業研究で環境応答生物学研究室(現環境応答植物学研究室)にお世話になりました。東薬で植物研究に携わるために一番手っ取り早い研究室として選択したわけですが、それ以上に都筑先生をはじめ先生方、先輩方には研究の基礎の基礎を叩き込んでいただき、研究室選びで悩んでいる学生がいたらぜひお薦めしたい研究室です。少し余談になりますが、環境応答で培った人間関係は今でも私の人生の重要な部分を占めており、都筑先生はもちろんのこと、このページの杉本さん(京大・山口大)、山岡さん(POSTECH)、緑川くん(UC Davis)とは学会で会えば近況などを話しますし、彼らの仕事ぶりを論文などで見ては自分の仕事への活力に換えています。もう一つ余談として、卒研ではラン藻(シアノバクテリア)を用いた光シグナル伝達経路に関る研究をさせていただきましたが、この程、私が一部関った研究として論文の雑誌への掲載が決まり、とても嬉しく思います。

 さて、東薬を卒業した後は、はじめに興味を持った環境ストレスについて高等植物を用いて研究がしたいという思いから、現在所属する植物分子生理学研究室を受験し、大学院修士課程からお世話になっています。大学院では、モデル植物のシロイヌナズナとイネを用い、植物ホルモンであるアブシシン酸シグナル伝達経路に関る転写因子を中心に研究をおこなってきました。アブシシン酸は、乾燥や浸透圧ストレスにより植物細胞内に蓄積する植物ホルモンであり、植物が普遍的に備えている水分が少ない環境に耐える仕組みと密接に関わっています。現在も大学院時の研究テーマの延長で研究、そして研究室の学生への教育に携わっていますが、今の職業に感じる魅力を3点挙げてみます。

 1つ目は、研究という仕事が過去の研究の積み重ねの上に成立しているということです。かなり難解ではありますが、例えば、みなさんが良く使うであろうGoogleの1つのサービスで、論文を検索することのできる「Google Scholar」というページにアクセスしてみてください。そこには、全く唐突に「巨人の肩の上に立つ」という言葉が書かれているはずです。これは、かのアイザック・ニュートンが好んで使ったとされる慣用句ですが、意訳すると上記のようなこと(研究という…)を示している言葉です。興味のある方は詳しく調べてみてください。
 研究というのはそのような性格を持つ仕事ですので、他人の研究にどれだけ影響を与えられるかが、良い研究の1つの尺度となります。我々研究者は、研究成果を論文という形で発表しますので、論文がどれだけ多くの人に読まれているか、どれだけ多く他の論文に引用されているか、というのが研究の評価につながります。評価と言ってしまうとかなりドライな印象を与えますが、自分の書いた論文が他人に引用されるというのは、今まで味わったことのない圧倒的な喜びを与えてくれるものだということを、論文発表後1年も経つと強く実感するようになりました。学会などで全く知らない人から声をかけられるというのもかなり嬉しいもので、これが私の感じる研究という仕事の魅力のひとつです。

 2つ目は、自分が世界の最先端の研究をしているということです。まだ世界で誰も知らないことを明らかにする、それが研究という仕事です。そのテーマについて世界で一番詳しいのは自分であるという強い信念を持って研究をおこなうのはとても大変ですが、同時にとてもやりがいのある仕事です。いつか「その分野の講演をぜひあなたにしてほしい」と言われるのが、私の夢のひとつです。

 3つ目は、科学は世界共通だということです。多くの場合、英語が公用語とみなされていることも幸いして、少しの英語力があれば、世界中どこの国でも研究者として働くことが可能ですし、学会などで世界各国を巡ることができるのは、研究者という仕事への唯一のご褒美かもしれません。また、今の所属研究室では海外の研究所と共同研究していることもあり、2012年の1月には2週間ブラジルに出張してきました。現地はポルトガル語ですが研究所内は英語で十分通じましたし、英語で打合せをし、自分のやりたい実験を英語で交渉するというのは、海外の研究所ならではの貴重な経験となりました。

 以上が、私が感じている研究者という仕事の魅力ですが、最初に記した通り、東薬に学んでいた時からぜひ研究者になりたいと思っていたわけではありません。なんとなく東薬に入学し、なんとなく植物生理学に興味を持ち、研究に打ち込む間に次第と形成されてきたものです。せっかくなので私見を述べさせてもらうならば、東薬で過ごす大学4年間はいろいろなことに興味を持ち、失敗を恐れずチャレンジし続けることが重要なことだと思います。もちろん、明確な目標を持って東薬に入学してきた方はとても素晴らしいし、ぜひ初志貫徹してほしいと思いますが、今はっきりと目標を掲げることができなくてもそれはそれで良いと思います。視野を広く、枠に囚われず何事にも挑戦できる環境が東薬には整っていますし、充実した4年間を過ごすのに東薬以上の学校はあまりないように思います。

 そんなことを言うと立場上少し問題ですが、東薬の卒業生が社会の様々な分野で活躍されることをOBの一人として期待しています。

東京大学大学院農学生命化学研究科 応用生命化学専攻 植物分子生理学研究室