卒業生メッセージ

総合的な「人間力」を!

加藤 真悟 さん

生命科学部7期生 大学院博士課程修了 (細胞機能研究室、現・極限環境生物研究室)
国立研究開発法人 海洋研究開発機構 (JAMSTEC) 特任研究員

 生命科学部7期生の加藤真悟です。在校生や受験生に向けて面白おかしいメッセージをください、という依頼を受けたのですが、そういったセンスは持ち合わせていないので、一研究者の月並みの経験談しか送れません。それでも皆さんの今後の進路などを考える上で、何かの足しになれば幸いです。

 私は、細胞機能研究室(現・極限環境生物研究室)で学位を取得した後、同研究室、理化学研究所、米DELAWARE大学と渡り歩いて、現在は海洋研究開発機構というところで特任研究員という肩書きで、鉄を食べて生きている微生物についての研究を続けています。

 学部・院生のときは、誰でもできるような流行りの手法でデータを出して、研究をしているつもりになっていましたが、当然論文にまとめる段階で、その研究内容の「ストーリー性」の無さに気づかされて、博士過程後期のある時期に行き詰まってしまいました。なんとか学位審査までには、それなりのストーリーを展開できたのですが、その時の苦悩は今でもよく覚えています。研究者として生きていくには、ただ黙々とデータを出すだけでなく、面白いストーリーを自分で展開する力を培っていかなければなりません。そんな当たり前のことに気がつくのに、結構な時間を費やしてしまいました。その過程を温かく見守り、そして導いてくださった指導教員の山岸明彦教授には心から感謝しております。学生時代に真剣に悩んで、周りの助けを借りながら、一つ大きな壁を乗り越えた、という経験は、今でも研究者を続けていられる原動力のひとつです。

 自分のわがままを通して、自分のやりたい研究を続けるためには、面白いストーリーを考えるだけではダメで、その面白さを外にうまくアピールできなければいけません。うまくアピールできると、他の人が興味をもってくれるので、人脈が広がりますし、研究を進めるためのお金を獲得しやすくなります。そうすると、より大きなストーリーを構築できるようになります。理化学研究所とDELAWARE大学での研究は、生活費込みですべて助成金によってサポートしていただいて、完全に独立した立場で、やりたい研究を好きなだけやらせてもらいました。そのときのラボメンバーはもちろんのこと、そのつてを通じて様々な機関・分野・考え方の研究者とも仲良くなることができました。異なる研究機関を数年ごとに渡り歩くことは結構大変ですが、その間に作り上げた「多彩で強固な人脈」は大きな財産です。

 海外研究者との人脈づくりは、私がDELAWARE大学に留学した理由の一つです。1年半ほど滞在してきました。DELAWARE大学は、米国東海岸のDELAWARE州というちょっとマイナーなところにあります。米国人でもどこにその州があるのか知らない人が結構いて、DELA…WHERE?という自虐的な洒落が書かれたTシャツが近所のスーパーに売られていました。もちろん研究では、著名な方々が在籍されている素晴らしい大学です。実は、同じ大学の同じラボに、その留学のちょうど1年前位に、2ヶ月ほど短期で滞在したことがありました。そのときはかなりお客様扱いで、向こうのボスとはお互い様子を探りあいながら、それほどぶつかり合うこともありませんでした。しかし、2度目の滞在の1年半の間では、お互い隠していた(?)地が出はじめて、遠慮なく大いに意見を言い合える間柄になりました。はたからみたら、かなり激しく言い合っているようだったらしく、他のラボメンバーから心配されることもしばしばありましたが、よりよいストーリーを構築するためには時には議論を戦わせることも不可欠であると、私もボスも割り切っていて、特に仲が悪くなることはありませんでした(と、私は信じています)。こういった深い関係を築けたことは、非常に大きな収穫です。また、そのような関係を築くためには、学会とか短期留学とかで、ちょろっと話すだけでは時間が足りなくて、少なくとも1年くらいの時間が必要なのかな、とも思います。

 「面白いストーリーを展開」したり、「多彩で強固な人脈」をつくったりするには、もちろん専門的かつ幅広い知識は欠かせませんが、それだけでなく、総合的な「人間力」(抽象的でわかりづらいですが、例えばコミュニケーション能力とか、発想力とか、忍耐力とか、そういうものをすべてひっくるめたものです)も高める必要があります。人間力は、研究者だけに必要なものではなくて、どんな進路に進んでも将来必要になってくるものだと思います。私も学生として過ごせた期間のうちに、意識して「人間力」を高める努力をもっとしてくればよかった、と今になって大いに後悔しています。在校生や受験生の皆さんは、各々いろいろな時間の過ごし方をされていると思います。ここに書いたような経験をした一人の研究者が、こんな後悔をしているんだな、ということを知ることで、皆さんの何か新しいアクションのきっかけになるのであれば、これほど嬉しいことはありません。