第8回生命科学セミナー
日時: 12月15日(金)17時〜
場所: 研究3号棟12階 セミナー室 G

 

演題1
久保木 恵理佳 さん
免疫制御学研究室 D3
「新規細胞死阻害剤IM-93は急性尿細管壊死と好中球細胞外トラップを阻害し、急性腎傷害をレスキューする」

 虚血再灌流(IR)に伴う急性腎傷害(AKI)では、活性酸素種(ROS)による実質細胞の壊死が病態を規定する重要な因子である。最近、この実質細胞の壊死にはフェロトーシスと呼ばれる新たな様式の死が重要な役割を担うことが報告され、フェロトーシス阻害剤の予防的投与でIRに伴うAKIの病態が改善されることが示された。また、組織傷害に伴って進行する浸潤好中球による2次的な炎症反応も、IRの病態形成において重要な因子であると考えられているが、浸潤好中球による組織傷害の直接の機序はよく分かっていない。本研究で我々は、新規の細胞死阻害剤IM-93が、IR発症後の投与でも、AKIの予後を改善できること、およびIM-93はROSの酸化ストレスに伴う尿細管上皮細胞のフェロトーシスを抑制するだけでなく、浸潤好中球のNET形成も同時に抑制することで、IRに伴うAKIの病態を改善することを明らかにした。

 

演題2
柴田 智子 さん
ゲノム病態医科学研究室 D3
「Epithelial cell adhesion moleculeを介して感染する受容体標的化腫瘍溶解性HSVの開発」

 がんに対する新規治療法として腫瘍溶解性ウイルス療法が注目されている。正常細胞では増殖せず、がん細胞でのみ増殖する腫瘍溶解性ヘルペスウイルス(oHSV:oncolytic HSV)のひとつであるT-VEC(Imlygic)は2015年に欧米初の腫瘍溶解性ウイルス製剤として医薬品承認された。本邦においてもoHSVの第Ⅱ相臨床試験が進められている。本研究グループでは、がん特異性および抗腫瘍活性を高めたoHSV療法の開発を目指し、がん細胞の表面に発現する分子を介してのみ感染する受容体標的化oHSVシステムを開発した。受容体標的化oHSVとしてepidermal growth factor receptor(EGFR)やcarcinoembryonic antigen(CEA)の標的化に成功しているが、さらなる適用拡大を目指し、新たにepithelial cell adhesion molecule(EpCAM)を標的としたoHSV(EpCAM標的化oHSV)の作製を試みた。本セミナーではEpCAM標的化oHSVの標的特異性ならびに抗腫瘍効果の解析結果を報告する。

 

演題3
渡部 麗奈 さん
心血管医科学研究室 D3
「Tumor necrosis factor-stimulated gene-6 (TSG-6) の動脈硬化抑制作用」

 動脈硬化の形成には、血管内皮細胞(EC)とマクロファージ(MΦ)の炎症反応、MΦの泡沫化、血管平滑筋細胞(VSMC)の遊走・増殖が関与する。TSG-6はECでの炎症・接着分子の発現を抑制し、MΦの炎症反応や酸化LDLによる泡沫化を抑制した。更に、TSG-6はVSMCの遊走・増殖を抑制し、Collagen発現を増加させた。TSG-6をApoE欠損マウスに投与すると動脈硬化病変の進展は抑制された。同時に病変内のMΦ浸潤や炎症の抑制とCollagen線維の増加が認められたことから、TSG-6は病変破裂を抑制していると示唆された。また、虚血性心疾患患者の血中TSG-6濃度は健常者に比べ増加しており、病変進展を抑えるため病変に浸潤したMΦからTSG-6が産生された可能性が示唆された。故に、TSG-6は動脈硬化病変の進展を抑制するとともに病変の安定化に寄与すると考えられ、動脈硬化に対する新たな治療戦略の標的になることが期待される (JACC Basic Transl Sci 2016;1(6):494-509) 。

 

問い合わせ先:
生命科学セミナー担当
分子生化学研究室 柳 茂