卒業生メッセージ

一生もののテーマ

山岡 靖代 さん

平成17年3月 環境生命科学科(現応用生命科学科)卒業(環境応答生物学、現環境応答植物学研究室)
平成20年3月 東京大学 大学院理学系研究科 生物科学専攻 修士課程修了
平成23年9月 埼玉大学大学院 理工学研究科 生命科学コース 博士後期課程修了 博士(理学)
平成23年10月―平成24年3月 日本学術振興会 特別研究員
平成24年4月― POSTECH Department of Life Scienceポスドク研究員

 私は、大学入試の合格発表後、東京薬科大学生命科学部と他大学のどちらに入学するかを決めかねていたところ、その分野に精通する知人から、「東京薬科大学生命科学部には、各分野で活躍し業績をあげている先生が多い」と聞き、東京薬科大学への入学を決めました。東京薬科大学は、山の中に建てられた大学で自然に恵まれた環境にあります。最寄り駅からは若干遠いのですが、バスが頻繁にでているので、通学に不便があった記憶はありません。緑に囲まれたとても居心地の良いキャンパスです。

 学部生時代は、「科学」に没頭する前に「ダンス」に没頭しました。結成されて数年しか経っていなかったダンスサークル(現ダンス部)は、アットホームで居心地がよく、授業時間以外はいつも体育館前に集まって仲間と踊っていました。文化祭で発表するという目標に向けて、自分たちのオリジナルの踊りをつくり、工夫し協力し合いながら完成させる。うまく踊れないなら、朝から深夜まで何時間もかけて根気よく練習する。そして、本番で踊りきったあとに皆で味わうあの達成感。現在の研究生活においても、これらの独創性・工夫・根気・協調性はとても大切なことであり、今振り返ると、それを東京薬科大学の仲間たちと共に気付かないうちに磨き上げていたのだと思います。

 4年生になると応答研(現環境応答植物学研究室)に配属しました。応答研は、皆が和気あいあいとしていて雰囲気が良いだけでなく、指導を担当してくれる先生や先輩方は博識で、科学に精通する多くの研究者を輩出する研究室でもあります。卒業研究では、植物脂質に関する研究を行っていました。テーマの決まった当時は、「遺伝子でもタンパク質でもなく、なぜあぶら?」と半ば消極的だったのですが、これがまた面白いこと。踊りと同様に、すぐに研究に打ち込みました。脂質は、細胞自身やすべてのオルガネラの構造維持に重要であり、さらに、脂質自身がシグナル物質としてタンパク質の活性調節など多くの生理機能にも欠かせないのです。また、植物脂質はバイオディーゼルとしても注目されているため、多くの企業が関心をもっている分野でもあります。東京大学大学院理学系研究科に進学した後も植物脂質研究を選び、細胞内に少量しか含まれていないホスファチジルセリンという脂質が花粉成熟に重要であることを明らかにしました。指導教官(西田生郎教授)の異動に伴い埼玉大学大学院理工学研究科に移った後には研究成果が認められ、Gordon Research Conferenceという名誉ある学会から研究発表の依頼を2年連続で受け、学生にして国際学会での口頭発表を2度も経験させてもらいました。近年、脂質解析機器が改良され、多岐にわたる脂質代謝物の解析が可能になってきました。その技術を学ぶため、学振特別研究員として埼玉大学に在籍していた時に、北テキサス大学で最先端の脂質解析機器(MALDI-MSおよびDIES-MS)を用いてユリの葯の脂質イメージング質量分析に取り組みました。自分のアイデアと最先端の機器を用いて誰も知らないことを明らかにするという、脂質解析の可能性に触れたとても有意義な一ヶ月間でした。

 現在は、韓国のPOSTECH(ポハン工科大学)でポスドク研究員として働いています。POSTECHは、設立50年以内の大学で世界1位の業績を誇る大学です。私の所属する研究室は、元来ABCトランスポーター研究で多くの業績を上げている研究室なのですが、近年、脂質蓄積に携わるABCトランスポーターなどの因子を用いてバイオディーゼルとなる油脂を蓄積させることを目的とした研究に取り組んでいます。脂質解析には、各脂質分子種に合わせた抽出技術や解析機器に関する知識を必要とするので、その経験があると重宝されるようです。また、光合成と脂質、細胞分化と脂質、花粉成熟と脂質など、あらゆる分野とのコラボレーションが効きます。「一芸は身を助ける」とはこのことでしょうか。今後も、研究生活が続く限り、植物脂質を軸とした研究を続けていきたいと思っています。

「一生もののテーマ」を与え、研究者として大切なたくさんのことを教えて下さった東京薬科大学のあたたかい先生方や先輩方、仲間たちに今でもとても感謝しています。